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パートナーとセックスができない…   ー女性性機能外来ー

これって未完成婚?挿入障害とは?ワギニスムスって何?

未完成婚という言葉をご存知でしょうか?婚姻関係にありながらいまだ挿入を伴う性行為にいたらない夫婦を表します。このような状態の夫婦がどのくらいの数いるのかというデータはありませんが、性相談外来にいらっしゃる方の相談内容のなかでは最も多いといってもいい相談内容です。

未完成婚の原因は、女性側では女性器の奇形、腟攣縮、性欲/興奮障害、感染症や腫瘍など外陰部疼痛を伴う疾患、閉経関連泌尿生殖器症候群、性嫌悪など。男性側では勃起障害、性欲/興奮障害、感染症や腫瘍など外陰痛を伴う疾患、性嫌悪などが挙げられます。
臨床の現場で挿入障害といったとき、これは女性側に問題がある場合をさします。そしてその多くが腟攣縮(Vaginismus;ワギニスムス)が原因だとされています。Vaginismusは『精神疾患の分類と手引き』によれば、「腟の外1/3の部分の筋層に反復性、または持続性の不随意攣縮が起こり性交を障害するもの。そのために著しい苦痛が生じ、または対人関係が困難になっている状態。ほかの精神疾患、投薬、一般身体疾患のみによるものではない。」と定義されます。具体的には、挿入を連想したり挿入しようとすると、腟の周りの筋肉が痙攣して腟がきゅっと締まってしまい挿入できない状態になってしまいます。

多くの相談者が外陰部への接触を「痛い」と表現されますが、これは主に恐怖や嫌悪、拒絶による身体的反応であり現実的な痛みではありません。また、Vaginismus自体は医師の指での診察によって腟の筋肉の攣縮を確認できないと確定診断はできませんが、多くの相談者が緊張や恐怖感のために内診台にのれなかったり、足が開かなかったり、内腿(うちもも)や陰唇に触れただけで痛いと感じたりして診察ができず、すぐにはVaginismusという確定診断ができません。こういった場合は挿入障害という病態としてとらえ治療を開始していきます。

治療は行動療法と精神療法を組み合わせて行います。多くの場合はダイレーターによる腟の拡張訓練、挿入訓練など行動療法から開始します。行動療法だけで解決する場合が多いことと、相談者が受け入れやすい方法だからです。しかし、明らかな心理的要因(幼少期の性的外傷体験や性嫌悪など)があった場合や、緊張や恐怖感が著しく強い場合、行動療法が行き詰った場合(目安は一年以内)は精神療法(専門の心理士によるカウンセリングなど)を組み合わせたり、並行して行います。また、挙児希望がある場合は年齢や妊孕性を考慮し不妊治療を並行して行っていきます。

最近の傾向としては、恋愛結婚が増えたことで、交際期間や結婚生活を経て挿入を伴わない性行為がカップルの間で長い間常態化してから相談に来られる方が増えているということです。挿入を伴わない性行為が常態化すると、その状態に慣れてしまい治療への意欲が下がってしまいます。高齢化との問題も並行してあらわれ、不妊治療による妊娠に逃避してしまい、性行為をあきらめてしまう夫婦も見受けられます。

もちろん、性行為の中で挿入が至上であるとは考えません。挿入がなくても満足度の高い性行為をしている夫婦はいますし、性行為自体がなくても仲睦まじい夫婦もいます。しかし、もし愛する人と挿入を伴う性行為をしてみたいと思っている方がいらっしゃったら、あきらめずに是非一度相談していただきたいと思います。治癒率は約50%。うち40%が1年以内に性交可能となります。また、受診までの長期化に伴い、治癒に3年以上かかってしまう方が増えていることも最近の傾向です。
性行為の際の緊張や挿入に対する恐怖感は、女性であれば誰しも一度は経験のある感情です。いま普通に性行為が行えている女性も、多少の差はあれ、かつては感じたことがあるはずです。しかし多くの場合はパートナーとの信頼関係や身体的接触のなかで緩和され挿入に至ります。そして信頼関係や身体的接触だけで緩和されない場合、そのベースには性知識の不足(男女の性器の解剖や性行為の方法など)や性についての思い込みなどが影響している場合があります。そういった知識や思い込みは人前で語られることなく、適切な方向に修正されずにいまに至ってしまうこともあります。

まとめると、挿入障害の方はかなりの数いらっしゃることが予想されており、主な原因はVaginismusです。治療はまずは拡張・挿入訓練を行い、必要に応じカウンセリングを組み合わせていきます。挙児希望がある場合は不妊治療を並行して行います。挿入を伴わない性行為が常態化すると、治癒にかかる時間が長くなってしまうことが予想されています。悩まれている方はどうぞお早めにご相談ください。

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2019.11.19
村田佳菜子医師