TVTはすばらしい手術ですが、テープが膀胱の近くを通過するために、数%の確率で、手術時に膀胱穿刺という合併症があることと、恥骨の裏をテープが通るため、ごくまれですが、恥骨のうらに大きな血管がある場合これを傷つけ出血してしまうことがあるのです。そして世界的には、腸を刺してしまったための死亡例が数例報告されています。 この欠点を補うのが、TOT(TRANCE OBTURATOR TAPE)手術です。専門的に細かくいえば、TVT手術は、恥骨尿道靭帯を補強する手術でしたが、この手術は膣ハンモックと呼ばれる尿道を下支えする膣の結合組織を補強する手術になります。ほぼTVT手術と同じことが、半分程度の手術時間で、合併症のリスクも少なく行えるようになったことが圧倒的な利点です。また命に差し障る合併症がないので、日帰り手術も可能になりました。しかしTOT手術にも、まだ欠点が2つありました。 1つは、軽症の尿失禁には有効ですが、重症になると効果が低下することです。尿道は、前述のように恥骨尿道靭帯と膣ハンモックという2つの構造物で支えられているのですが、TOTはこのうち支持力の弱い膣ハンモックのみの補強になるため、重症例には効果が低くなるのです。 もう1つの欠点は、閉鎖孔の穿刺に際に、閉鎖神経を傷つけることがあり、手術後に大腿の内側に違和感や痛みが長く残ることがあることです。 この2つの欠点を完全に克服したのがTFS手術です。 TFS手術は、TVT手術を開発したオーストラリアのピーター・ペトロス先生が、TVT手術の欠点を克服するために開発した手術です。 尿道の下を通るポリプロピレンテープの先端をアンカーと呼ばれるポリプロピレン製のクリップで、恥骨下の尿生殖隔膜というところに装着するのです。この簡単な操作でTVT手術と同様に恥骨尿道靭帯を補強できるので、重症尿失禁も治療可能で、術後の陰部や足の痛みは、全くありません。そしてほぼ100%日帰り手術で行えます。最新医療のため、残念ながら2010年現在で健康保険は適用されず、自費手術(26万円)となります。当院では、世界に先駆けてこのTFS尿失禁手術を導入し、安定した術後成績を収めています。
TFS手術は、尿失禁手術のみ適応されるわけではありません。骨盤臓器脱(子宮脱)の手術もこのTFSで、日帰り手術が行えるのです。 骨盤臓器脱手術に関しては、現在日本では、3つの系統の手術が並存して行われています。 1つ目は、昔からある子宮を取って、膣前壁と膣後壁を縫い縮める手術です。この手術は、1週間前後の入院期間が必要で、子宮を取るため、骨盤内の血のめぐりが悪くなるため、2-3割が再発し、膣が裏返しになって出てくる、膣脱となっていました。 2つ目は、最近女性泌尿器科を標榜する施設では、TVM手術という手術が行われるようになりました。 TVM(TENSION FREE VAGINAL MESH)は、ポリプロピレン素材メッシュでも、テープではなく「シート」という広い面で膀胱や子宮を支えよう、という発想の手術です。一般的に、子宮摘出もしなくてすみます。欧米では、専用キットが販売されていますが、日本ではこのキットが保険適応される見込みがないため、日本の医師は、型紙を使用して、ポリプロピレンメッシュシートを専用キットと同様な形に切り抜いて使用して、保険適応にしています。日本のTVM手術の場合、専用キットを使用していませんので、手術する医者の経験と技術で、その手術成績が大きく違う可能性があります。その他TVM手術の問題としては、現在日本では伸縮性のあるポリプロピレンシートを手術に使用しているため手術後シートが縮んでしまい症状が再発することがあるなどです。さらにこうした手術に用いられるポリプロピレンは生体適合性のよい素材ですが100人に1-5人くらいの割合で、このポリプロピレンを異物として認識してしまう人がいいます。この反応はポリプロピレン素材の量に比例して多くなりますので、シートによる補強では、異物反応の出る確率は5〜10%という報告もあります。さらにTVM手術には、膀胱や子宮などの活発に収縮・弛緩する臓器の動きを、骨盤底を広範に覆ったメッシュシートが、妨げてしまう心配も指摘されています。 3つ目として考えられ、TVM手術の欠点を補うのが、TFS(TISSUE FIXSATION SYSTEM)手術です。骨盤底を、臓器の支持と排泄機能の2つの重要な機能をつかさどる、動く“臓器”と考え、骨盤底の動きの重要な支点をテープで補強して、臓器の支持とともに、骨盤底のスムーズな動きを回復させようとする方法です。 つまり尿失禁と骨盤臓器脱という全ての骨盤底の病気がTFSのみで治療可能なのです。LUNAでの骨盤臓器脱手術は日帰りで90分程度です。手術費用は、尿失禁手術よりテープを多く使用するとため、2010年現在38万円〜となっています。