医療コラム

乳腺外科医の立場から。
医療用パラメディカルピグメンテーション・アートメイクについて思うこと

今回は、パラメディカルピグメンテーションについてお話したいと思います。
ですがその前に、私が、知り合いから教えて頂いたお話からさせて下さい。

女として…

image ある病院の職員から聞いたお話です。
その病院には乳癌を患った患者さんがいました。抗癌剤治療の副作用のために、頭髪・睫毛・眉毛まで脱毛していました。癌治療だけでも辛いのに、その上、脱毛まで強いられる現実は、患者さんにとって本当に辛いものです。

その患者さんは亡くなる寸前、心を許していたこの職員さんに伝えたそうです。「女として、せめて睫毛・眉毛が欲しかった…」と。乳癌の治療では、この患者さんのように脱毛に悩まされている方、その他にも、術後で元の乳輪乳頭まで再建できていない方、手術の傷跡が気になる方など、多くの患者さんが誰にも言えず、悩んでいるのかもしれません。
患者さんから主治医に意見は言いにくいものです。主治医にパラメディカルピグメンテーションの十分な知識がなければ、なおさらのこと。外科医は患者さまの命を救うことに全力を注ぎますが、美容に対する部分には疎いものです。

しかし「外科医がそこまで考えてあげられれば患者さんも喜ぶと思う」、その病院の職員さんから、そう教えて頂きました。
このお話を聞いて、より一層、パラメディカルピグメンテーションをもっと全国の外科医や患者さんに知って頂きたい、そう思いました。

抗癌剤治療における脱毛

image 乳癌の治療において、抗癌剤は重要なものの1つです。手術前や手術後の抗癌剤治療はある一定の期間の投与であるので、一時的に脱毛をしますが、抗癌剤の投与が終われば、また自然に頭髪・睫毛・眉毛は生えてきます。
しかし、残念ながら再発してしまった患者さんは、長期に抗癌剤投与が必要になるので脱毛は続きます。特に、この脱毛だけは避けたい患者さんもおられ、脱毛の頻度が低い抗癌剤を使用しますが、その分、治療の選択肢は少なくなってしまいます。また、この脱毛の対策としては、頭髪に対してはウィッグ、睫毛に対してはツケ睫毛、そして眉毛に対してはアートメイク、つまりパラメディカルピグメンテーションがあるのです。

パラメディカルピグメンテーションとは

パラメディカルタピグメンテーションとは、先天的な皮膚疾患や後天的に受けた外傷による瘢痕などの再建を、アートメイクの技術を用いて行う治療です。アメリカでは1970年代より行われている技術で広く浸透しており、近年日本でも注目されてきています。治療の実際は、皮膚の浅部に専用の電動マシンで微細な穴を開け、同時に専用の色素を入れて施術しています。
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    専用の電動マシン

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    ピグメント

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    様々な色があります

タトゥとの違い

image 色素を皮膚の深層に注入する半永久的なタトゥとは異なり、
パラメディカルピグメンテーションでは、真皮上層~中層に色素を注入するために耐久年数は1~5年となり、少しずつ周りの皮膚の色に近づけていくことが可能です。
また、年齢に伴う皮膚の色素変化にも修復(リペア)することで対応出来ます。 MRI検査においてはアメリカFDA(食品衛生管理局)では、パラメディカルピグメンテーションがあっても、放射線科医や放射線技師の管理のもとではMRI検査を可としていますが、今までは本邦での統一見解がありませんでした。しかし、日本でも多くのデータの集積から、現在はパラメディカルピグメンテーション施行者におけるMRI検査での熱傷報告は1例もないことが分かっていますので、今後は見解も統一されると思われます。  

適応疾患

外傷後の傷跡・熱傷によるケロイド・白斑に対し他の皮膚と同色でのカモフラージュ、頭髪脱落部位のカモフラージュ、口唇口蓋裂の術後に対し唇の形を整えて傷を目立たなくさせる目的でも施行しています。また乳輪縮小や陥没乳頭の術後に乳輪の輪郭を修正したり、乳房や乳頭の再建後に健側乳頭に合わせてデザインすることが可能です。

メスで切らない乳輪乳頭再建!  

2013年7月より乳癌全摘後の人工乳房再建術の一部が保険適応となり、乳房のボリュームを取り戻すことは可能となりました。しかし術前のような乳輪乳頭を完全に取り戻すことは難しいのが現状です。
乳輪乳頭の再建には、健側の乳輪乳頭の移植や局所皮弁法などが現在行われていますが、これらはメスを使って切らなければなりません。
しかし、パラメディカルピグメンテーションであれば、メスを使用して皮膚を切らずに、乳輪乳頭を再建することが可能であり、より患者さんの身体に対して非侵襲的な処置であります。

そこで当院では、パラメディカルピグメンテーションの技術を用いて乳輪乳頭の再建を施行しています。実際、患者さんは全国から来院されており、高い満足度を得られています。
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    乳輪・乳頭

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今後の展開  

日本におけるパラメディカルピグメンテーションは、医療者が独学で学び施行している施設が多く、施設により技術に差があるのが現状です。当院の医師と看護師はBio-Touch社パラメディカルタトゥピグメンテーションを受講し、技術の習得をしています。アメリカと比較し日本におけるパラメディカルピグメンテーションはまだまだ認知度は低いのが現状です。しかし、今後は需要が高まることが予想され、医療者による高い技術の習得・教育システムの構築は必須であり、さらに安全な商材を入手するルート確保と各医療機関の連携も求められてくると考えます。